(新ポリティカにっぽん)歴史の因縁と民衆の思い:朝日新聞デジタル


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小雨がちらつく中、国会前で安保関連法案に反対する女性=2015年9月18日午後10時23分、関田航撮影
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安保法の成立から1年が経ち、国会前に集まり反対を訴える人たち=19日午後4時26分、東京都千代田区、関田航撮影
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雨の中、安保関連法に反対する人たちが集まった集会=19日、長崎市
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運動から身を引き、漁船からトラックに魚を積む唐牛健太郎・元全学連中央執行委員長=1976年、北海道・紋別港
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早野透(はやの・とおる) 1945年生まれ、神奈川県出身。68年に朝日新聞に入社し、74年に政治部。編集委員、コラムニストを務め、自民党政権を中心に歴代政権を取材。2010年3月に退社し、同年4月から16年3月まで桜美林大学教授。著書に「田中角栄 戦後日本の悲しき自画像」など=安冨良弘撮影
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 台風が次々とやってきて、このところずっとおひさまにお目にかかっていない。秋はときに長雨もあるけれど、さわやかな秋晴れの日もあるはずなのに。この9月の空模様、なにかの異変でなければいいが。

 9月19日午後、国会議事堂前は、やはり雨が降っていた。地下鉄永田町駅を降りると、歩道は人人人で埋まっていた。そこをかきわけて、ようやくマイクの声の聞こえるところに近づく。安全保障関連法廃止を求めるデモ集会の開会のあいさつを聞く。

■「憲法はまだ死んでいない」

 「1年前も雨が降っていました。国会の中では、日本をつくり替える法案が強行され、国会の外には…」

 そうだったなあ、1年前の9月18日深夜から19日未明にかけて、参院本会議で安保法が採決され、成立した。外は雨、わたしも国会議事堂を取り囲む深夜のデモ集会のなかにいた。

 戦争に行く――。

 その法案は、これまで憲法で認めていないとされてきた集団的自衛権を認めて、外国軍隊の戦争に応援に行くことを可能にするものである。ともあれ、安保法は施行され、いま、取りざたされているのは、南スーダンの戦地へ、陸上自衛隊の青森の部隊にその任務を与えて派遣するという話である。わが国領域がだれかに攻められ、それと戦うというのならともかく、わざわざ外国の「殺し殺される」舞台に自衛隊員を送るなんて……。

 あれからちょうど1年、安保法が成立した同じ9月19日、廃止を求めるデモ集会が開かれたというわけである。集まったのは、主催者発表で、2万3千人。

 民進党前代表岡田克也氏が立つ。「1年たっても憲法違反の法律は憲法違反。日本政治はどんどんおかしくなる。野党共闘でしっかり闘い抜く」。この集会を最後に、代表の座を蓮舫さんに引き継いだ。

 続いて共産党の志位和夫委員長。「岡田さんに敬意を表する。参院選で32の1人区で野党共闘、11の選挙区で勝利した。次は、総選挙で…」

 さらには福島みずほ社民党副党首、生活の党…。元シールズの若者が「この国の憲法はまだ死んでいない」、ママの会の女性は「1年前、1歳の息子を連れてここにいた。きょうも連れてきた。息子の未来が不安だから」と語った。元自衛官もきて「ほんとに戦死者が出ると思うよ。日の丸を柩にかけて帰ってくることになる」と述べた。

 雨はときに小降りに、ときに激しく、デモ集会を包んでいた。

■新聞は、世の中の縮図であるはず

 さて、このデモ集会は、あしたの新聞にどんなふうに載るだろう。翌20日の朝、新聞各紙のバラバラ具合に驚いた。

 朝日新聞を見た。社会面の見開きページの右、いわゆる第2社会面に写真と27行の記事が載っている。「安保法ノー、訴え続ける 成立1年」という見出し。野党の肩を持つと思われがちな朝日新聞としては小振りである。ははあ、きのうはリオデジャネイロのパラリンピックの閉会式だったんだ。その記事が1面トップ、社会面も大きい記事が占めている。まあ、国会前デモ集会、いくらか小さめなのは仕方ないかな。

 コンビニでほかの新聞を買ってきた。ほう、毎日新聞は同じ第2社会面だけど、大きい記事だな。写真と103行である。見出しは「安保法廃止 諦めない 成立1年各地で抗議」と気持ちの入ったものである。ほう、そうか、全国400カ所以上で集会があったのか。

 東京新聞はすごい。1面で書く。「戦争する国反対 訴え続ける、安保法成立1年 国会前デモ」という見出し。2面に政治解説、5面の社説は「違憲性は拭い去れない」との見出しで「安保関連法の全面見直し」を主張する。第2社会面に「廃止 あきらめない」「再び国会前に立つ」と題して、去年も今年もデモにきた3人の写真と話を載せている。20歳、54歳、72歳。

 さて、読売新聞は? あれ、どこに載っているのかな、ページをめくってもめくってもどこにも出ていない。あれれ、そんなことあるのか。産経新聞はどうなのかな、とめくってみると、やはり載っていないのかな、いや、あった、社会面の短信欄に、「安保法成立1年、各地で反対集会」というほんとに小さい記事だけどあるにはあった。

 新聞は、世の中で起きていることの縮図であるはずである。いったい、あれだけの数の人々が国会議事堂前に集まったこと、それがなかったことになってしまっていいのか。

 人々の政治意思の発現はむしろきめ細かく拾いあげるのが政治記者の役目である。どこからどんな未来が開けてくるかわからないからだ。ときの権力の支配を破って、次の時代がつくられたことは歴史の教えるところである。ましてや民主主義の時代である。複数意見、対立意見の存在を前提にしている。新聞はそれぞれの個性があっていいけれども、この原点は忘れてはなるまい。

■「言葉は腐る」ともらした唐牛

 その2日後の9月21日、やはり国会議事堂の近く、憲政記念館で、「唐牛伝」出版記念会が開かれた。ノンフィクション作家の佐野真一さんの近著である。

 唐牛ってだれだ、と若い人たちは思うだろう。唐牛は「かろうじ」と読む。唐牛健太郎、1937年に生まれ、1984年に47歳で死んだ。いわゆる60年安保闘争で、天下に名をはせた全学連委員長である。函館生まれ、北海道大学の学生自治会の委員長から全学連トップとなる。唐牛は、60年安保闘争のカリスマとなる。

 ときは1960年、首相は岸信介、戦前は東条英機内閣の閣僚、戦後は戦犯として巣鴨プリズンに捕らえられ、しかしたぐいまれな知力と行動力で政界に復帰、首相まで上りつめた。そこで手がけたのが日米安保条約の改定だった。どういうことなのか。

 岸の意図は、こうだったろう。日本は敗戦とともに、マッカーサー元帥の軍隊が占領した。日本の旧勢力を追放し、外交官だった吉田茂をあやつって、戦争放棄の日本国憲法をつくらせた。時至って、日本の講和独立と同時に日米安保条約が結ばれた。それは、米軍が好きなように日本に基地をつくって居座る、あまりにアメリカに好都合な条約である。それを替えたい。日本とアメリカの、少しでも対等性を回復した条約に…。

 いつ、どこで、岸の安保改定に反対する民衆の動きが高まったのか、おそらく往時の民衆は、そんなことよりせっかく得た平和を脅かされたくない、また戦争をする体制をつくるなんてもういやだ、という素朴な思いだったろう。わたしは中学生だった。「きょうはデモに行ってくる」と社会科の先生がはちまきをして校門を出て行ったのを覚えている。そしてぼつぼつ出回っていた白黒テレビで国会議事堂の周りをデモ隊が取り囲んでいるニュースを見たりしていた。

 そこにいたのがデモ隊の急先鋒(きゅうせんぽう)「ゼンガクレン」である。委員長の唐牛のアジ演説のもと、学生たちは警察の装甲車を乗り越え、国会議事堂への突入を試みる。唐牛は逮捕され、引き続く6月15日、警官隊と学生の激しいもみあいの中で、22歳の東大生樺美智子さんが死んだ。6月19日、新安保条約は自然承認の形で成立した。その4日後、岸信介首相は退陣表明した。

 佐野さんの「唐牛伝」で、まことにくわしく語られていることだが、これはむろん唐牛にとって敗北だった。心に傷を負った唐牛は、その後、日本各地を転々、ある時は巡礼に、ある時は与論島のサトウキビ農民に、そしてある時は、北海道紋別の底引き網漁船の漁師となる。唐牛は「言葉は腐る」ともらし、その後は行動のみに生きた。最後は直腸がんを患って激しい人生を閉じた。

 おっと、いまから56年も前の60年安保闘争に深入りしすぎた。

 しかし、岸信介が日米安保条約改定を果たし、個別的自衛権の枠内ながら日米軍事協力体制をつくりあげ、そしていま、岸の孫の安倍晋三首相がその枠を超えて集団的自衛権を認める安保関連法をつくった、日本の防衛体制に祖父と孫でかかわる、そこは歴史の因縁というほかない。

 しかし、その一方で、国会議事堂を取り囲む民衆がいる。60年安保のときはかくも激しく、そして2016年はかくも辛抱強く、日本の軍事体制強化に反対した。民衆の思いは続く。(早野透=元朝日新聞コラムニスト・桜美林大学名誉教授)

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Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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